巨大システムによる事故は免責されるべき

最近、小倉弁護士産婦人科医を中心とした医師との間で医療事故の免責がどうあるべきなのか論争が起きているようだ。
小倉弁護士側は、『医療事故の実態を知りたければまず俺たちを免責せよという要求について』というタイトルで医師会の要求が過多であると表明している。(余談になるが、小倉弁護士の文章は異様に読みにくい。弁護士なんだから、結論をまず言って欲しい。今回取り上げる例え話にしろ異様に回りくどいし、文章がまずいのではないか?)
これについては専門外なので今回足を踏み入ずにいるが、小倉弁護士が変なことを言っているのに違和感を表明しておく。

今回、『刑事罰は業界を崩壊させるのか』と言うタイトルで『同業者がやるべきことは、(中略)当該職業の遂行過程において人を死に至らしめた場合を包括して刑事責任を免責せよと要求することではない』なんて事を書いている。これは、巨大システムを考えるに辺り、非常に危険な思想でありかつ現状認識が出来ていないと思われる。

 ある職業に属する者が業務上過失致死の疑いで起訴されたが、同業者としてみたときに検察官が要求する注意義務の程度が不当に高く設定されているように思われると判断した場合に、同業者がやるべきことは、弁護費用や裁判係属中の生活費等の支援や、当該状況における注意義務のレベルについての同業者としての見解をまとめて弁護人に提出するなどの裁判支援等であって、当該職業の遂行過程において人を死に至らしめた場合を包括して刑事責任を免責せよと要求することではないし、当該職業に属する者を起訴することはけしからんと叫ぶことでもないし、その職業に属する者が行う職務の適否を判断する能力をもっているはずがないと裁判官を小馬鹿にすることでもないでしょう。

これは、『航空先進国のアメリカやほとんどの国において、事故の再発を防ぐという意味でも故意や認識ある過失の場合を除いて刑事責任や民事責任が問われないのが原則になっている』と言う意味でも、巨大システムにおいて個々の責任が免責されているという状況に照らしてみれば、間違った認識でしかない。医師会の免責要求の例として取り上げたわけだけれども、例にするには間違い過ぎな例だと思う。
以前書いたように、『日本でも事故調査の独立性という観点から、事故調査を担当する航空・鉄道事故調査委員会を国土交通省所属の団体を、2008年度中に現在の「航空・鉄道事故調査委員会」と「海難審判庁」を統合し、新たに「運輸安全委員会」が出来ることとなっており、アメリカのNTSBのような事故調査と安全対策を第一に航空事故を扱えるようになる気運は起こっていた』状況にある。

実際、交通事故により人を死傷させた場合には懲役・禁固刑を含む刑事罰に処せられる危険があり、個別事案においては運転者の注意義務の程度が高く設定されているものがあるとしても、交通事故における死傷事故については刑事免責せよ(あるいは、故意または故意に匹敵する重過失以外は刑事免責せよ)という見解は国民の間に広く普及しないし、だからといって、総体的にいえば、刑事罰が怖いので自動車を運転しないという人の数が著しく増加しているという事実はありません。

自動車事故の場合、事故調査が刑事罰を判断する警察で行われているというのがそもそもの問題であって、免責が行われないというのは警察側の調査体制(とりあえず、事故は刑事罰にしておけば良い)をむしろ問題視すべき話である。
小倉弁護士へのブックマークのコメントid:NOV1975氏が『例えば、外観で前のバスから子供が落ちてきたとかはトラック運転手が逮捕されるのはおかしいと言う声は結構上がったと思います。』と語ったように、いたずらに刑事罰を与えようとする警察の姿勢に批判も大きくなりつつある昨今である。
実際記事になることはないけれど、外環での事故の被害者家族が損害賠償請求をトラック運転手にしたことが明らかになれば、結構な炎上が発生すると思うんだけどね。
我々はトラック運転手ではないけれど運転手として事故に遭遇する可能性もある訳だし、もらい事故で刑事罰+損害賠償請求を受けるって言われたら、「ふざけんな!」って怒り出す人間がほとんどだと思うんだけどなぁ。

何が問題点かまとめると

  • 医師を批判しようとするあまり、他の分野に対して見当違いな批判をしている
  • 巨大システムにおいて個は免責されるべきだということを理解していない
  • 例えの自動車事故においても、免責されるべき状況は存在する
  • 結論づけも間違っている

つまるところ、全てが万事間違ってる。
小倉弁護士も医師会に対し疑問を呈するのはいいけれど、医師に対して批判をしようとするために他の分野を冒涜するようなことはやめて欲しい。
全方面を敵に回す戦い方って疲れないんですかね?